78歳 女性
「痛い場所」
右上肢=右全指~右肩上部および肩甲骨に至るまで。
「痛めた理由」
平成22年4月中旬、転倒し右手首(右橈骨下端)を骨折。
「来院までの状態」
整形外科にて受診し、受傷当日にギプス固定。
固定数日後から、ギプスが苦しい、指が痛い(第4指)などの症状が出ていたという。ギプスを外して欲しいと希望したが、そのまま3週間固定。
ギプスの除去をするころには、骨折患部だけではなく、右全指~右肩上部および肩甲骨に至るまで焼け付くような激しい痛みが出ていたという。
ギプス除去後も痛みの改善はなく、むしろ悪くなっている状態だったという。
「来院時の状態・所見」
右全指~右肩上部および肩甲骨での焼け付くような痛みがあり、待合室の椅子にジッと座っていることができないほど。
全ての部位で自発痛(+++)、夜間痛(+++)、動作痛(+++)。
昼も夜もない痛みで、ここ数週間は殆ど睡眠も取れない。お医者さんから処方された痛み止め・座薬(鎮痛剤の)もまったく効果がないという。
肩関節・肘関節は痛みの激しさの割にはROM(関節可動域=動く範囲)の低下はあまりみられない。
手関節は正常の半分程度のROM。
MP関節(指の根元の関節)は第一指(親指)以外、殆ど動かない。
PIP・DIP(指の第一・第二関節)のROMも大きく損なわれており、全体のイメージで言えば、ソフトボールを握っている状態でそれ以上開くことも閉じることもできない。
第一指(親指)の先端が辛うじて第二(人差し指)・第三指(中指)の先端に触れる程度。
鉛筆さえ持ちあげるのは困難。箸を持つこと字を書くことどころか、スプーンを使うこともできない。
肘から下は浮腫(むくみ)が目立ち、手関節周辺から先端に掛けては発赤が顕著(トマトの様に赤い)。
手関節周辺から先は痛みだけでなく、「ジリジリと熱い」という感覚も訴える。
あまりに過酷な状況であり、数日間は記録を残したいと申し出ることもできなかった。
痛みは-・±・+・++・+++の5段階評価。
「痛くない」「やや痛む」「痛む」「強く痛む」「より強く痛む」としています。
「治 療」
熱感と発赤が減退するまでの間は、筋腱・感覚刺激療法(手技)を主とし、金属棒を用いる場合は刺激を極力抑えた。その後は50:50程度の割合。
手関節が物に当たったり、不意の動作で動かされたりすると非常に辛いというので非伸縮包帯と厚紙シーネでゆるく固定。
キツイ感じが出るようなときは固定を全て外すようにアドバイス。睡眠時の腕の置き方もアドバイスした。
また、自分でのマッサージや痛んでいる関節の運動などは一切行わないように指示した。
「結 果」
予想はしていたものの、長い経過を辿る事になった。症状が症状なので、初期の頃は注意深く状態の推移を見守る必要があった。
[1-1、1-2画像まで]
初日の段階では、浮腫が強く発赤も著明(手関節周辺から先は酷い日焼けの様に)。
画像は来院9日目。
浮腫は半分くらいになり、発赤も半分以下に(画像では赤みがあまり感じられないが、実際にはもっと赤みが強かった。カメラの性能に依存するものと思われる)痛みは依然として強いが、夜眠れる時間が出てきた。掌の「ジリジリと熱い」感覚はこのころ7割方改善。
| 画像 左1-1 右1-2 ソニーコンデジ リサイズ |
[2-1枚目の画像まで]
治療開始後1ヶ月を迎える頃
掌の「ジリジリと熱い」感覚は消失。痛みの強さレベルは一進一退だが、「焼け付くような」感じが薄らいできた。
治療開始後2ヶ月を迎える頃
痛みはあるものの手関節のROM(可動範囲)は、ほぼ回復。
第一指(親指)以外の指のROMは回復傾向にはあるが、日常生活で使用できるレベルではない。=指を曲げたとき、指先が掌(手のひら)と5cm程開いていたものが2cm程まで回復。
浮腫は7割方改善したが、ちょっと無理をして動かすと強い浮腫が戻ってくる。
痛みは焼け付く感じはもうない。痛む強さも四六時中(+++)だったものが、(+)~(+++)と変化し、「だいぶ楽な時がでてきた。」と患者さんが自覚できるようになった。厚紙固定除去。
治療開始後3ヶ月を迎える頃
第二~第五指の動きは伸展(指を伸ばす方向)で改善が認められるが、屈曲(曲げる方向)では目立った改善はない。=指先は掌と2cm程開きがあるまま。
浮腫も現状維持。痛みの強さは(+)~(++)に落ち着いてきた。包帯除去。
治療開始後4ヶ月を迎える頃
第二~第五指の屈曲が改善してきた。=第二、第三指先と掌の開きは1cm程となり、第四、第五指は先端が付くようになって来た。
浮腫はまだあるが、範囲は手の甲だけと限定的になってきた。痛みの強さは(±)~(+)程度となり、痛みというより重苦しさに変化してきた。
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| 画像 2-1 ソニーコンデジ リサイズ |
[3-1、3-2枚目の画像まで]
治療開始後5ヶ月を迎える頃
第二、第三指先も違和感を伴うものの掌に付くようになってきた。
浮腫は手の甲に若干残る。痛みは無理をして動かすと(+)程度出てくることもあるが、あまり気にならない。右腕全体は疲れやすい傾向にある。
現在、ご主人の体調が優れないため、治療は中断。
| 画像 左3-1 右3-2 |
「考 察」
CRPSⅠ-Ⅱが多発的で難治性の高い痛みであることは、認識しており、すでにこれだと思われる症例も5~6例みてきました。
ですが、元々の傷害部位(骨折した手首)だけに留まらず、全ての指にまで運動域の極端な低下(動きが悪くなった)と高度の浮腫(むくみ)・発赤がみられ、さらに運動障害や浮腫も認められない肘関節や肩関節周囲にも極めて強い難治性の痛みが波及していたことに改めて驚きがありました。
条件的に発症から何ヶ月もたった訳でなく早い段階からケアできたこと、患者さんが辛抱強く、指示を良く守ってくれたことが回復への足掛かりになったのではないかと考えています。
http://mtsrst-test.blogspot.com/
kankakushigeki@gmail.com
山形・こうふく 黒田 康史
